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静岡地方裁判所 昭和33年(行)6号 判決

原告 株式会社日本相互銀行

被告 静岡県

主文

被告が原告に対し別紙目録記載の土地につき昭和三二年一一月二一日になした右目録表示の換地予定地指定変更処分は、これを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

当事者双方の申立及び事実上・法律上の主張は別紙記載の通りである。

立証〈省略〉

理由

一、熱海市清水田八七七番宅地四三坪がもと訴外浜野帰一の所有であつたこと、被告が都市計画法に基く熱海都市計画復興土地区画整理(昭和二五年五月二三日建設省告示第三四九号)の施行者として、その制定にかゝる施行規程に基き、右土地及びこれに隣接せる宅地一六坪、合計五九坪に対する換地予定地を仮番号同字三〇の二六宅地六四坪二合九勺と指定したこと、右換地予定地は、所謂現地換地であつて、従前の土地に比し坪数に五坪二合九勺の増加があるのは従前の土地の裏側に接していた国有地の一部を、別紙図面に示すように附加したために生じたものであること、その後の同年一〇月四日に至り、右浜野は右清水田八七七番の宅地を、右図面に示すように三筆に分筆して同番の一乃至三とした上、その一及び三を訴外青木福治郎に売渡し、原告は同年一一月二八日、同番の一、宅地一九坪を右青木から買受けてその所有者となつたことは当事者間に争がない。

二、右のように換地予定地の指定がなされた後に、従前の土地につき所有権移転がなされた場合においては、特段の事情がない限り、換地に関する旧所有者の権利義務はすべて新所有者に承継せられ、新所有者に対し換地予定地指定がなされたと同一の状態を生ずるのであつて、このことは旧都市計画法第一二条により準用される耕地整理法第四条、第五条、都市計画法に代つて制定された土地区画整理法第一二九条の規定によつても明らかである。

これを本件について見るに、被告は、原告の買受けた土地は一括換地予定地の対象となつた土地の一部であつて、換地予定地中右売買に伴い、原告の承継すべき部分を特定することが出来ないから、承継を云々することは無意味であるというのであるが、本件従前の土地たる清水田八七七番は別紙図面に見るようにほゞ矩形をなし、訴外浜野はこれを隣地の境界線に平行な直線をもつて三分し、その一(八七七番の一)を訴外青木に、同人は更にこれを原告に売渡したものであること、本件換地予定地は所謂現地換地で、裏側の国有地の一部を同図面に示すように旧地に附加したに過ぎないものであることは前示の通り当事者間に争がないから、右に見たような各土地の位置関係を考えれば、青木が特に旧地一九坪のみを原告に譲渡し、換地による増坪分二坪八勺に対する権利を自己に留保したというようなことのない以上(そのような事実は被告も主張していない)右換地予定地中(イ)旧八七七番の一に重なる部分一九坪及び(ロ)旧八七七番に附加された旧国有地のうち、旧八七七番の一とその二及びその三との境界線を延長した線分に挾まれる部分二坪八勺(図面中の斜線部分)、合計二一坪八勺が、原告の承継すべき換地予定地であると解するのが妥当であり、単に青木がこれに反する主張をしている一事をもつてこれを動かすことはできず、その他本件全証拠によるも、原告の承継した換地予定地の範囲を右のように解することを妨げるに足る事情を発見することはできない。

三、次に被告が原告に対し昭和三二年一一月二一日附で、土地区画整理換地予定地変更通知書と題する書面を送つたことは当事者間に争がなく、右通知書(甲第七号証の一)及びこれに添附の換地説明書(同号証の二)換地予定地指定変更図(同号証の四)(何れも成立については争がない。)は、その標題及び内容から見て、原告に対する換地予定地を、原告が前記売買に伴つて承継した前記二一坪八勺より旧国有地部分二坪八勺を差引いた一九坪に変更する趣旨のものであると解すべきであつて、右各証及び何れも成立に争のない甲第一号証の一、二、同第二号証、同第三号証、同第六号証の一、二、同第七号証の五を総合するときは、被告ははじめ原告が八七七番の一の土地の所有権取得に従い、これに対する換地予定地二一坪八勺についての権利を承継したものとして取扱い、右二一坪八勺分の精算金徴収手続を開始していたのであるが、青木が、原告に売渡したのは従前の土地一九坪だけであつて、換地による増坪分は売渡してないのにこれを原告に与えるのは不当であるとして執拗に抗議したため、面倒になつたので、原告の換地予定地として一旦認められていた二一坪八勺を、増坪分を差引いた一九坪に変更したものと認めることができる。右認定に反する証拠は全くない。

四、そうだとすると、たとえ原告と青木との間の紛争が解決した場合には、原告に対し改めて二一坪八勺の換地予定地指定がなされる可能性があるとしても、右指定がなされていない以上、本件換地予定地指定変更処分は前記国有地部分二坪八勺に関する原告の換地上の権利を奪うものであることは言う迄もない。

五、しかのみならず都市計画法に基く換地予定地の指定をするに際し合理的な理由がないのに同種の事情にある宅地所有者を差別して扱うことは違法な処置といわねばならないところ、本件換地予定地の指定変更処分は原告所有地と隣接し同様の事情にあると認められる青木ほか一名の各所有の旧八七七番の二、三に対しては合計四坪三合七勺の増坪となつているのに反し、原告所有の旧八七七番の一に対しては前記のように十九坪を指定し増坪は全くないのであるから原告にとり不利益な処分を受けるものであつてこの点からいつても右処分は違法なものというほかない。

六、被告は本件換地予定地の指定変更処分をなすについては、区画整理事業の円滑迅速な進行をはかるという公益上の必要があつたと主張するけれども、本件事実関係の下においてかゝる変更処分をなすことを区画整理の進行上有益であるとは到底解し難いから、右主張も理由がない。

七、そうすると、本件換地予定地変更処分は何れの点からするも違法たるを免れず、その取消を求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 大島斐雄 田嶋重徳 藤井登葵夫)

(別紙)

第一、当事者の求める裁判

一、原告の請求の趣旨

被告が原告に対し、熱海都市計画事業復興土地区画整理の施行者として、昭和三十二年十一月二十一日、別紙目録記載の土地につき、右目録表示のようになした換地予定地変更処分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する被告の答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、原告の請求の原因

一、熱海市熱海字清水田八七七番宅地四三坪は、もと訴外浜野帰一の所有であつたが、被告は、都市計画法に基く熱海都市計画事業復興土地区画整理(昭和二五年五月二三日建設省告示第三四九号)の施行者として、同法施行令第十七条の規定による熱海都市計画事業復興土地区画整理事業施行規定を定め、これに基き昭和二十五年七月九日、右浜野に対し、右土地及びこれに隣接する宅地一六坪計五九坪に対する一括換地予定地を、同字三〇の二六宅地六四坪二合九勺(但し、現地換地であつて地番が変更されただけである。)と指定した。右換地予定地の増坪分五坪二合九勺は、従前の土地の裏側に接していた国有地(事実上通路として使用されていたが、道路法にいう道路ではない。)の一部を従前の土地に附加したために生じたものであつて、その関係は別紙図面に示す通りである。

二、その後右浜野は、同年十月四日、右清水田八七七番の宅地四三坪を右図面の通り三筆に分筆し、同番の一及び三を訴外青木福治郎に売渡し、更に原告は同年十一月二十八日、同番の一宅地一九坪を右青木より買受けその所有者となつた。

三、青木と原告との間の右売買は、右十九坪の土地についてなされたものであるが、右土地については、既に前記のような換地予定地の指定がなされていたのであるから、土地所有者としては、区画整理事業終了後においては、前記国有地の内右土地の裏側に接する部分二坪八勺(別紙図面中斜線部分)が附加されて増坪となることを当然期待し得べき地位にあつたのであり、原告は青木より土地所有者としてのかゝる地位をも移転すべき明示乃至黙示の合意の下に右十九坪の土地を譲り受けたものである。原告と青木との間に、右のような合意がなかつたとしても、一般に、換地予定地の指定がなされている土地につき、所有権の移転があつた場合、新所有者は、換地に関する前所有者の権利義務一切を承継するものであつて、このことは、土地区画整理法第一二九条、耕地整理法第四条、第五条等の規定に徴し、疑を容れないところである。

四、被告も、右のような原告の地位を承認し、原告に対し、右十九坪の土地に対する換地予定地として、前記国有地部分を含めた二十一坪八勺を指定したのである。尤も、右指定処分は原告に対し、文書等による正式の通知はなかつたけれども、被告は原告に対し、昭和三十一年九月十二日附土地区画整理精算金通知書により、換地予定地二十一坪八勺に対する評定価額を一〇一万一二〇〇円とし、これと従前の土地の評定価額との差額二〇万六八〇〇円を精算金として徴収する旨通知し、更に同年十二月二十六日附納額告知書を以て右精算金の第一回分納金として二万五九〇〇円の納入を命じたので、原告はこれを納入した。従つて、被告が原告に対し、換地予定地二十一坪八勺を指定したものであるか、少くとも原告が前述のような換地に関する権利を承継した事実を被告が認めていたものであることは明瞭である。

五、ところが、その後被告は、昭和三十二年十一月二十一日附土地区画整理換地予定地指定変更通知書を以て、前記原告の買受土地に対する換地予定地二十一坪八勺を、これより前記国有地部分を差引いた十九坪に変更し、右通知書は同年十一月二十八日原告に到達した。原告が調査したところ、本件土地の売主である前記青木福治郎が、同人が原告に売つたのは従前の土地十九坪だけであつて、換地処分により増坪となるべき二坪八勺は売つていないのだから、これを換地として原告に与えるのは不当だと申入れたのに対して、被告が不法にもこれを認め、右の如き変更処分をしたものであることが判明した。

六、しかし、右変更処分は、第三、四項に述べた原告の換地に関する既得の権利を侵害するものであつて、しかも、かゝる処分をするにつき、何ら公益上の必要性も存しないものであつて違法である。

七、(被告の主張に対し)仮に被告が昭和三二年一一月一二日はじめて原告に対し換地予定地の指定をしたものとすれば、これにより指定された一九坪の土地に接着する前記国有地部分二坪八勺は結局訴外青木の受ける換地に編入されることになると解されるが、このように原告に対する換地は全然増坪がないのに、青木に対しては右二坪八勺をも含む鍵の手形の換地を与える如きは、耕地整理法第三〇条、被告の定めた施行規程第一〇条(何れも換地は従前の土地の地積・等位等を標準として交付すべき旨を定めている。)に違反する不公平な処分であつて違法である。よつて右換地予定地指定変更処分の取消を求め本訴に及ぶ。

第三、請求原因に対する被告の答弁

一、請求原因第一項及び第二項の事実は認める。

二、同第三項前段、青木と原告との間に、換地予定地二一坪八勺に関する権利義務の譲渡がなされたとの点は不知、同項後段の法律上の主張は争う。土地区画整理において換地予定地指定処分がなされると、従前の土地に対する所有権の内容たる使用取益権は停止されて名目化し、その代りに換地予定地に対する使用収益権として具体化する(施行規程第七条参照)のであつて、かゝる特殊な状態にある従前の土地についての所有権移転は勿論当事者において任意になし得るところであるが、換地予定地の一部に対する使用収益権の移転を目的として従前の土地の一部に対する所有権の移転がなされる場合においては、右移転の対象となつた換地予定地の一部分なるものは、具体的に特定されていなければならないわけである。ところが、本件においては、訴外浜野所有の従前の土地、熱海市熱海字清水田八七七番地、合計五九坪を一括して、これに対する換地予定地六四坪二合九勺が指定されたに過ぎず、本件従前の土地一九坪に対する換地予定地が、右一括換地予定地の内どの部分に該るのかは全く特定されていないのであるから、換地予定地に対する権利の承継を云々する原告の主張は、右承継が合意によるにせよ、法律上当然のものであるにせよ、前提を欠いた無意味なものである。

三、請求原因第四項中、本件換地予定地に関する原告の権利を被告が認めたとの点、及び被告が原告に対し、その買受けた土地十九坪に対する換地予定地二一坪八勺を指定したとの点は否認する。もつとも、被告が、原告主張のような仮精算金通知書並びに精算金分納額告知書と題する書面を発し、これが原告主張の日に原告に到達した事実はあるが、これは、原告に対する換地予定地指定処分の通知ではない。而して、右精算金に関しては、次項に述べるような事情により、被告は訂正を行つている。

四、同第五項中、被告が原告主張のような土地区画整理換地予定地変更通知書と題する書面を発し、これがその主張の通り原告に到達した事実、及び、青木から、原告主張のような申入れがあつた事実は認める。しかし、右通知書の趣旨とするところは原告に対し一旦指定した二一坪八勺の換地予定地を一九坪と変更するというのではない。

前述の通り、被告は従来原告に対し、換地予定地の指定をしたことはないのであるが、本件土地を原告が買受け、しかも青木の前記申入れによりこれに対する換地予定地中原告の承継すべき範囲について売主青木との間に紛争があることを知つたので、かゝる場合被告としては争のない範囲についてのみ承継を認める他なく、さきに原告に対してなした二一坪八勺についての精算金徴収通知は誤りであるので、同年一一月二五日附、土地区画整理仮精算金変更通知書を以て、これを訂正し、換地予定地一九坪に対する仮精算金九万六三〇〇円を徴収することとし、右のような事態を明確にして区画整理事業の円滑迅速な進行をはかるため、右精算金通知にさきだち原告に対し、改めて一九坪の換地予定地を指定すると共に、残余の国有地部分二坪八勺については、指定を留保したのである。従つて、原告主張のような、同人に対する換地予定地指定処分の変更処分なるものは存在しないのである。

五、換地予定地の指定があつた土地につき、権利の変動があつた時は、当事者は連署してこの旨を復興事務所長に届出るべきものとされており(施行規程第一六条)、原告と青木からかゝる届出があれば、被告としては何時でも、届出に従つて原告に対し、新に換地予定地の指定をする用意がある。原告が、自己に帰属すべきものと主張する前記廃道路敷部分を含めた換地予定地の指定を受けられないのは、青木との間の紛争が解決されないからであつて、被告が原告に対してなした前記十九坪の換地予定地指定処分は、原告の前記国有地部分に対する権利を終局的に奪つたものではないし、他方、かゝる指定処分をなす必要があつたことは前述の通りであるから、右処分には何等違法のかどはなく、原告の本訴請求は理由がない。

(別紙)

図面〈省略〉

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